2016年11月2日水曜日

映画 「はちみつ色のユン」を観て

BD(バンド・デシネ)について、以前このブログで少し触れたのですが、今回は昨年読んでとても良かったBD「はちみつ色のユン」(ユング作 DU BOOKS刊行)について書こうと思います。

この本を日本語翻訳された鵜野さんと、L'Institut Tokyoで定期的に活動しているBD研究会でお知り合いになり、作品のテーマも以前から興味のあった韓国人の海外養子縁組ということで発売後すぐに読み、映画版もぜひ観たいと思いながらも機会に恵まれずいました。(第17回メディア芸術祭にて大賞を受賞した作品にも関わらず、DVDなどがリリースされていないのです。)

今回法政大学国際文化学部オープンセミナーとして上映会と学際トークが開催されるというのを幸いに、やっと映画を観ることが出来ました。

映画版は、アニメーションと実写パートが織り交ぜられ、(ハイブリッドアニメーションと銘打たれている)韓国の養子縁組政策についてもよりわかりやすく説明され、アニメーション部分で語られるユンの心情描写や幼年期~青年期までの個人的なストーリーと、大人になったユング氏が実際韓国を訪れ、自身のルーツを求める姿を追う実写ドキュメンタリー部分が自然に交錯していました。

「ディアスポラ」(離散、元の国家や民族の居住地を離れて暮らす国民や民族のこと)という重いテーマにも関わらず、ユング氏のユーモアあふれる表現で、暗くなり過ぎずに時には会場に爆笑が起こっていました。個人的には、2人の息子を持つ母としての視点で観てしまい、ハンカチが手放せないほど涙を流していました。(近くにユング氏もいらっしゃったので泣かないように頑張っていたのですが駄目でした。)

ユン少年は5歳のときに母国で孤児となり、集団養子縁組の形でベルギー人の養父母に託されました。幼少期は比較的うまく順応していきますが、自身のアイデンティティを模索し始める思春期に入ると、自分の出自に対して様々な疑問や葛藤を持つことになります。その苦しみはどれほどのものだったのでしょうか。私には想像もできません。

また、子を手放すことになった実母を取り巻いていた当時の韓国の社会背景(朝鮮戦争後の貧困、未婚の母に対する偏見など)や、自分と目の色も髪の色も全く違う、訪れたこともない国から来た小さな子供を育て、その子が後に自分のルーツについて深く思い悩み、もがき苦しむ姿を見ることになった養母の心情を思うと、今自分が母親として我が子たちに自然に、必然的に関われているということがいかに幸せなことなのだろうと考えました。

会の終わりにユングさんからサインをいただきました。

さらさらっと筆ペンで描いていただきました!ユンのイラストが可愛いです。


少しだけお話もさせていただいたのですがさまざまな葛藤を抱え、乗り越えてきたユングさんは、それを感じさせない飄々とした雰囲気をお持ちでした。絵を描き、想像の世界に没頭することが救いだったという氏。この素晴らしい才能は実の家族からの最大の贈り物だったのではないかと思います。

皆さんも機会があればぜひ観てみてください。(BDも絶賛発売中ですよ~)



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